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   急速に普及するヒートポンプの実力  2010年までに520万台を家庭に nikkei BP net

 

京都議定書の削減目標上回るポテンシャル

 

「空気の熱でお湯が沸く」がうたい文句の、家庭用給湯器「エコキュート」が売れている。

「エコキュート」はヒートポンプ技術を利用した電気給湯器で、初めて商品化された2001

年の出荷数は5000台。その後、年々伸び続け、昨年は35万台、これまでに累計83万台

が出荷され、順調に普及してきている。実は「エコキュート」には、給湯分野の一製品

という以上の期待がかかっている。エネルギー効率が高く、地球温暖化防止にも役立つ

「エコプロダクツ」という顔を持つためだ。

現在、家庭で使用しているエネルギーの3分の1は、台所や風呂の給湯に使われ、その

大部分はガスや石油の燃焼式の給湯機器が占めてきた。2005年までに、家庭からの二

酸化炭素(CO2)排出量が1990年に比べて36.7%増えるなか、給湯におけるCO2排出

をいかに抑えるかが、家庭部門からの排出量を大きく左右するわけだ。

地球温暖化対策への切り札としてヒートポンプ技術が注目を集めているのは、投入した

エネルギーの何倍もの熱エネルギーを利用できるためだ。ヒートポンプとは、大気や

地下水などを熱源とし、熱を運ぶ冷媒を圧縮・膨張させることで温度を上下させる仕組

みだ。電力は冷媒を駆動させるために使われるだけなので、わずかな電力で多くの熱

を利用できるようになる。

投入したエネルギーと取り出せるエネルギーの関係を示す単位が「COP」という成績

係数だ。COPが大きいほど効率がよく、例えばCOPが3であれば、投入したエネルギー

の3倍のエネルギーを得られるという意味である。暖房や給湯の場合、化石燃料を直接

燃焼する方式では、1の熱源からはせいぜい1の熱エネルギーしか得られない。ところが、

無尽蔵にある空気熱を利用するヒートポンプの場合、最大で約6倍もの熱エネルギー

を生み出すことができる。

エネルギー効率が上がってきた背景には、1999年の省エネ法改正で導入されたトップ

ランナー基準がある。エアコンもトップランナー基準が適用される特定機器に指定され

たため、新技術の開発・導入が加速し、改正以前のエアコンの効率はCOP=3程度で

あったものが、現在では軒並みCOP=6を上回り、わずか10年でエネルギー利用効率

が2倍に向上した。そして、エアコンで培ったヒートポンプ技術の向上が、ほかの機器

の性能アップへもつながっている。

財団法人ヒートポンプ・蓄熱センターの試算によると、エネルギー消費によって発生

するCO2のうち、ヒートポンプを使うことで家庭部門から年間5420万t、オフィス

ビルや店舗など業務用建物からは年間4430万tと、民生部門だけで年間約1億tもの削減

ポテンシャルがあるという。これは、京都議定書の目標達成計画で民生部門に割り当て

られた排出削減目標6000万tを大きく上回る数値だ。さらに産業部門における年間3290

万tの削減ポテンシャルを合わせると、日本全体で年間1.3億tものCO2削減の可能性を

秘めている。

 

・投入したエネルギーの何倍もの熱エネルギーを取り出せる

気体は圧縮すると温度が上がり、膨張すると温度が下がる。また、熱は

高い方から低い方へ流れるという基本原理がある。ヒートポンプは、熱

力学のこの二つの基本原理を応用した技術で、冷暖房や冷凍・冷蔵など、

家庭用にも業務用にもすでに広く用いられている。ここ数年の技術革新

によってエネルギー効率が大幅に向上、従来の冷却用以外にも給湯や暖

房へと用途が広がっている(出典:東京電力)

 

 

デザイン含めた商品としての充実をめざす段階に

 

家庭用CO2冷媒ヒートポンプ給湯機

の試作機。電力中央研究所で試験を

繰り返し、エコキュートの基礎を築

いた(写真提供:電力中央研究所)

 

ヒートポンプを応用した機器のなかでもエコキュートが特徴的なのは、空気の熱を運

ぶ冷媒にCO2を使っている点である。エアコンには従来、フロン系の冷媒が使われて

いたが、オゾン層を破壊するフロンの製造を禁じるオゾン層保護法が1988年に成立し、

メーカーにも対策が求められるようになった。そこで自然冷媒の研究を進めていた財団

法人・電力中央研究所では、毒性も可燃性もないCO2に注目し、1995年から本格的な

基礎研究に着手。その結果、空調と違い、10℃の水を65℃に加熱する必要があるなど、

昇温幅が大きい給湯用の加熱には、冷媒としてCO2が適していることをつきとめた。

そこで、当時、給湯分野の省エネを模索していた東京電力と先進的なカーエアコンの

技術を持つデンソー(愛知県刈谷市)の3者で共同開発し、2001年に世界で初めて、

CO2冷媒を利用したヒートポンプ給湯器の商品化に成功した。

商品化から足掛け7年、各メーカーの市場参入が進み、技術革新も年々進んでいる。

エネルギー効率で言えば、当初はCOP=3.5程度だったものが、今では4.9程度にまで

向上し、技術的な面では大きな進歩を遂げた。現在、各社がしのぎを削っているのは

小型化による差別化だ。

多くのエコキュートは、空気の熱を集める「ヒートポンプユニット」部分と、集めた

熱で沸かしたお湯を貯めておく「貯湯タンクユニット」部分からなる。給湯器として

は、例えば、瞬間ガス湯沸かし器と比べ、かなり大きな設置スペースが必要だ。貯湯

タンクは、肝心なときに湯切れしないように、370〜460リットルと大きな容量を

持たせるものが多く、どうしてもかさばりがちだ。そこで、各社が競うように小型

化を目指している。

例えば、松下電器産業のエコキュートには、独自に新開発した高性能真空断熱材を使用。

従来の発泡系断熱材と比べて、厚さがおよそ5分の1の7mmで済むため、貯湯ユニット

をスリム化でき、従来品より設置面積を13%小さくすることに成功した。

一方、日立製作所の新型エコキュートは、45リットルと給湯タンクがダントツで小さく、

ヒートポンプユニットと一体化することで省スペース化を図っている。タンクの小型化

を可能にしたのは、お湯を使いたいときに沸き上げる「瞬間給湯方式」への転換だ。

事前にタンクに貯めておいた、約90℃という高温のお湯を混合して設定温度に調整

するため、小型でも湯待ち時間を少なくできるよう工夫している。

エコキュートの開発を担った電力中央研究所の斎川路之上席研究員によると、技術面

でのさらなる課題は、寒冷地(おおむね札幌以北)への対応を含めた、年間運用での

効率向上だという。小型化と共に、各社が寒冷地対応への実証研究を進めているところ

だが、同研究所でもこうした基礎研究を続けるとともに、各社の商品を評価すること

で普及に貢献していく考えだ。

エコキュートの能力を最大限発揮するには、地域や季節による気温の変動だけでなく、

ユーザーの使い方も重要だ。実際にカタログ値通りの運転ができる割合は、家庭ごと

に異なる。住宅の省エネに詳しい住環境計画研究所(東京都)の中上英俊所長は、

「作るほうも売るほうも、消費者の生活スタイルをもっと正確に商品に反映させるべき。

そうしないと実生活とのミスマッチが起こってしまう」と指摘する。性能を表すCOPは、

外気温(乾球/湿球)16℃/12℃、給水温度17℃、沸上温度65℃という定格条件下の

数値であり、必ずしも実測値ではないことも今後の課題として挙げられる。

 

 

業務用給湯器にもヒートポンプ活用の流れ

 

一方、業務用分野でのヒートポンプの活用について、東京電力法人営業部都市エネル

ギーソリューション部の鎌倉賢司部長は、「空調機のトレンドは電動式冷凍機の復活」

だと言う。業務用施設で冷房が広く導入されるようになった1960年代以降、電動式

冷凍機が普及した。しかし、冷媒に特定フロンガスを使用していたため、オゾン層破

壊の問題で1980年代後半以降、急速にガス吸収式冷凍機に主役の座を奪われていった。

その後、オゾン層を破壊しない新冷媒の開発に成功し、2000年ごろから再び出荷台数

が増加。現在の主力製品はCOP値が6を超えるなど性能が著しくアップしている。

それでもまだ、空調熱源のシェアとしては、中規模以上の施設では熱効率の低い吸収

式が主力。そうした市場に向け、高効率で経済性に優れた電動式空調機の開発を各社

が進めてきた。なかでも、東京電力と東芝キヤリア空調システムズが共同開発した

「スーパーフレックスモジュールチラー」は、小容量の冷凍機をモジュール構造で

連結することでシステム全体として大容量を実現している点が特徴的だ。3台から最大

12台まで、冷却専用モジュールとヒートポンプモジュールを負荷に応じて組み合わせ

ることが可能で、効率のよい運転ができる。

 

東京電力、関西電力、三菱

電機の3社で共同開発され

た業務用エコキュート「サ

ニーパックQ ECO」は、業

界トップの高効率(定格CO

P4.1)を実現。CO2冷媒の

活用により大幅にコンパク

ト化できた(写真提供:

東京電力)

 

 

業務用ヒートポンプ給湯器の分野では、「省エネにもなり、CO2排出削減効果の高い

ヒートポンプ給湯器への引き合いが増えている」と、鎌倉部長は最近の傾向を語る。

今年4月には、東京電力と東芝キヤリアで共同開発したフロン冷媒の「ほっとパワー

エコ・ウルトラBIG」を発売。さらに今年5月下旬、東京電力と関西電力、三菱電機

による共同開発品として、CO2冷媒の業務用エコキュート「サニーパックQ ECO」の

発売を発表した。定格COP4.1を達成、CO2冷媒の大型圧縮機の開発により、同等の

容量を持つ従来製品より、通風・サービススペースを含む設置面積は約45%と大幅

にコンパクトにできたという。

次々と高い性能を誇る製品が登場するなかで、COPが表す能力をフルに発揮するには、

家庭用機器と同様、ユーザーの使い方にも工夫が求められる。東京電機大学未来学部

の射場本忠彦教授は、「業務用ビルのエネルギー効率を高める難しさの一つに、ビル

オーナーや施主の関心の低さがある」と言う。産業部門における使用エネルギーに対

する姿勢とは大きな隔たりがあり、「ビルオーナーや経営者が、エネルギー管理者の

地道な努力を正しく評価していないのではないか」と危惧する。

ビルオーナーなどの啓蒙のために、ヒートポンプ・蓄熱センターでは、ヒートポンプ

蓄熱システム運転管理などの、改善事例を公募し表彰するという事業を2004年から

始めている。同センター評議員でもある射場本教授は、「現場での工夫や努力を評価

することで、さらなる省エネ運転を加速し、オーナーや経営層にも意識改革を促せ

れば」と狙いを語る。

 

 

2030年までには家庭用で2000万台の普及を見込む

この数年で著しい性能向上が見られるヒートポンプに対し、国も大きな期待をかけて

いる。政府は京都議定書目標達成計画のなかで、2010年までにエコキュート520万台、

業務用高効率空調機1万2000台の普及目標を掲げる。「新・国家エネルギー戦略」

(2006年)や「エネルギー基本計画」(2007年)でも、ヒートポンプ技術の導入

加速、利用分野の拡大を基本方針に掲げ、重要な戦略の一つと位置付けている。「20

30年のエネルギー需給展望」では、小型化・低コスト化の実現により、2030年まで

にエコキュート2000万台の普及を見込むなど、強気の長期見通しも立てている。

普及に向けた課題の一つは価格だ。家庭用エコキュートの多くは工事費別で70万円を

超える。夜間電力を使用するため、月々のランニングコストが1000円程度に抑えら

れるとはいえ、相当な初期投資が必要になる。

打開策として、国はエコキュート、高効率空調機ともに、導入費用に対する補助金

制度を用意している。エコキュートの場合は、家庭用には一律4万5000円、大型業務

用には26万円。高効率空調機については空調機本体の3分の1が補助対象となっている。

一方で、エコキュートは大手家電量販店での取り扱いも始まり、今後の価格競争が

普及を促進する可能性も出てきた。

ただし、現在の補助金は、あくまで導入段階のインセンティブに過ぎない。「新しい

システムを導入しても、5年、10年と経過したときに、当初のCOPを維持し続けるに

はそれ相応のメンテナンスが必要。商品のライフサイクルに対する保証についても

支援策を設けるべきではないか。物販としての機器導入への補助だけではヒートポ

ンプの潜在能力を十分に生かせないかもしれない」と東京電力の鎌倉部長は指摘する。

さらなるハードの技術的な進歩とともに、その性能をフルに生かすユーザーの意識向上、

政策面での支援というソフトがバランスよく融合し、ヒートポンプによる地球温暖化

対策が大きな前進を遂げることを期待したい。

 

 

 

nikkei BP net 取材・文/小島和子